地球温暖化が問題となって久しいですが、地球規模の環境問題としてフロンガスのことを覚えている方も多いのではないでしょうか。かつては冷蔵庫やエアコン、ヘアスプレーなど様々なところで利用されていたフロンガスですが、オゾン層の破壊や地球温暖化効果のために1980年代後半から世界的に規制が進み、日本でも1996年までに特定のフロンの全廃がされていますね。地球規模の環境問題で、各国が協力して問題解決に取り組んだ好例になっています。
このフロンガスの危険性を発見し世界中に警告、各国が協力するきっかけを作ったのが、1995年にノーベル化学賞を受賞した科学者マリオ・モリーナ。今回ご紹介する『Mario and the Hole in the Sky』は、マリオ・モリーナの生涯を描いたノンフィクションの絵本です。
この本は、優れた児童文学作品に対して贈られる、Golden Kite Awardのノンフィクション部門を受賞しています。これは米国児童図書作家・画家協会の賞なのですが、同じ児童書の作家や画家が選ぶのもプロの目で厳選された感じがしますね。ちなみに、出版社のサイトでは6~9歳向けとなっています。
メキシコで生まれ育ったマリオは、8歳の誕生日のお祝いに顕微鏡を両親からプレゼントされます。「つまらない。汚れた水を見たからって何になるだ?」と思いながら顕微鏡をのぞくのですが、そこで見る拡大された世界に夢中になります。
自分で実験も始め、化学好きになったマリオ。化学を研究するようになった彼は、化学物質のもつ危険性にも気が付くようになりました。
お店に行けば、素晴らしい新成分をPRしている新商品にあふれています。でもマリオは、害の無さそうに見える化学物質でも、環境中で他のものと反応して危険なものになりうる、ということを知っていました。化学を勉強するにつれて、一つの疑問がわいてきます。「これらの新しい化学物質は、本当に安全なんだろうか?」
研究者としてマリオは、フロンガスがオゾン層を破壊するということを発見します。フロンガスは日常生活のいたるところに使われていましたが、大気中に放出されたフロンガスは、地球を紫外線から守っているオゾン層を破壊してしまうのです。マリオはフロンガスの危険性を公表しますがほとんどニュースになりません。ですが10年以上研究を続け、危険性について警告を発し続けました。
そしてイギリスの科学者が、南極上空のオゾン層に大きな穴を発見します。アメリカ合衆国と同じぐらいの大きさの穴です。やっとその危険性に世界中の人々が気づきました。地球全体で取り組まないといけない初めての問題です。それまで参考になるような地球規模の問題はなく、各国が協調して取り組めるのかどうかはわかりません。
ですが、アメリカとメキシコを含め28カ国がフロンガスの使用を禁じるとのニュースをマリオは耳にします。参加国はすぐに46カ国となり、さらには190カ国以上になりました。人類は初のグローバルな環境問題を生み出してしまいましたが、解決方法も見つけたのです。損傷したオゾン層は、2070年までに完全に回復すると予想されています。
地球温暖化についてもマリオはメッセージを残しています。フロンガスの問題では、各国が力を合わせて地球規模の問題を解決できることを示したのです。世界中のすべての国、すべての文化、すべての民族が協力し合えるのです。かつて我々は自分達の星を救いました。もう一度できます、と。
この本からはいろいろと教訓を得られると思うのですが、子を持つ親として印象に残ったのが、マリオの幼い頃のエピソード。化学に興味を持ったマリオが、使われていないバスルームを自分の実験室にしていい、と両親に聞くのですが、両親はびっくりして「爆発とかさせないでね」と言いつつ、マリオの好きに使わせます。
それに、マリオがいろいろと実験をしていると煙がバスルームから漏れ出し、マリオのおばさんが見つけます。洗剤を焦がしたものを顕微鏡で見ていたそうなのですが、化学者だったおばさんはにっこりして、実験用のガスバーナーや化学物質をマリオにあげるのです。子供が興味を持って何かに夢中になっているときに、周りの大人が理解を示してそれを援助してあげるからこそ、その子の能力が伸びるのだな、と感じました。ノーベル賞を受賞、とは言わなくても、子供の可能性を伸ばすのは大切ですよね。ぜひ、親子で読んでみてください。
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