親子で楽しめる洋書、今回ご紹介するのは“The Prince and the Dressmaker”です。
舞台はパリ、貴族や上流階級の社交界で華やかなパーティーが催されていた時代。デザイナーとして活躍するのが夢のFrancesは仕立屋でお針子として働いていました。あることをきっかけに、パリに滞在中のベルギー王子Sebastianにデザイナーとして雇われます。
実はSebastianには秘密がありました。女性の華やいだドレスを着ることが大好きだったのです。ですが将来に王となる身としては、そのようなことは秘密にしておかなければなりません。Francesが王子のために女性の服装をデザインしていることも、もちろん内緒。
そしてSebastianは、Francesのデザインした服を着て、かつらをかぶり化粧をしてLady Crystalliaという名で夜な夜な社交界に出ていきます。そのファッションスタイルから、Lady Crystalliaはパリのファッションアイコンとなっていきました。
Francesは自分のデザインが多くの人に認められていくことに、王子は自分の好きな格好でいられることに、喜びを感じます。そして秘密を共有する二人はいつの間にか恋に落ち…
……という単純なストーリーではありません。Francesは自分のデザインしたドレスがパリ中で好評を博し、夢だったデザイナーへの道に近づいていくのがうれしい一方で、王子が秘密を守るためには自分は表に出ることができない、ということに衝撃を受けます。
それよりなにより、王位を継ぐ身だということを重々承知していながらも、好きな服を着て自分らしくありたいという王子の葛藤が読み手をひきつけます。ストーリーの最後のほうでSebastianの父王が思い切った行動をとるのですが、単純な私は同じく子を持つ親としてうるっと来てしまいました。
この作品、ページを見ていただければわかるように日本語だと広い意味で漫画に分類されるかと思いますが、英語だとgraphic novelと呼ばれます。graphic novelと言われると、comicよりも長めだったり、ストーリーに深みがある印象を受けますね。
出版社のサイトでは対象年齢は12-18歳となっていますが、小学生でも楽しめるのではないかと思います。セリフで使われている英語は難しいものではありませんし、もしセリフで分からないところがあっても絵を追っていけばストーリーは理解できます。それに、いろんな衣装を見ているだけでも楽しめるのではないでしょうか。
“The Prince and the Dressmaker”は、漫画界のアカデミー賞ともいわれるHarvey Awardの、Best Publication for Teensという部門で受賞をしています。また、フランスのコミックフェスティバルAngoulême International Comics Festivalは世界第三位の規模を誇るのですが(1位はもちろん日本のコミケですね)、そこでも賞を獲っているようです。
この作品では百貨店のオープンセレモニーが出てくるのですが、1852年に開業したボン・マルシェが世界初の百貨店だと言われていますね。1885年にはパリでプランタンがオープンしました。貴族階級が残りつつも、産業革命を背景として成功した資本家がブルジョワ階級として台頭してきている時代ですね。この作品でも百貨店をオープンするために投資家のご機嫌を取っているんだ、というようなセリフがちょこっと出てきます。1889年にはエッフェル塔が建設され、19世紀末からはベル・エポックと呼ばれる繁栄の時代をパリは迎えますね。
そのような華やかな時代を背景にしているせいか、絵柄もカラフルで楽し気です。特に衣装に興味がある方だったら、Francesがデザインする様々なドレスや、登場人物の服装を見ているだけでも楽しめると思います。
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