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アメリカ先住民の抗議運動がもとになった絵本―『We Are Water Protectors』

2016年4月、アメリカの中西部ノースダコタ州でパイプライン建設に反対する抗議運動が起こりました。先住民の居留地であるスタンディング・ロック保留地を横切るパイプラインによって聖地や埋葬地が脅かされ、先住民が飲み水として利用する河川も汚染されてしまうとの恐れからです。
周辺地域の先住民の若者が中心となってデモが始まり、建設現場近くでテントを張って抗議を続けました。アメリカ中の200を超える先住民部族のほか、海外からも支援が来たこの抗議運動は2016年からずっと続き、裁判ではパイプラインの環境への影響を再調査するよう命ぜられたりしましたが、パイプラインは完成、稼働しているそうです。
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今回ご紹介する絵本『We Are Water Protectors』は、この清浄な水を求める抗議運動から発想を得て生まれました。筆者のCarole Lindstrom自身、スタンディング・ロックの北の部族に属するそうです。自分も運動に参加したかったけれども家族のことがあったので行けなかった。でもそれまでに絵本を書いたことがあったので、そういう形で貢献できるのではないかと思い、この本を書きました。運動のために何かする必要があると感じたんですとインタビューで述べています。
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この本では、先住民の女の子が土地と水、そしてそこに住むすべての生き物のために黒い蛇の姿をとったパイプラインに対して立ち上がります。筆者はインタビューで、なぜ主人公を子供にしたのかと聞かれたとき、スタンディング・ロックは若者が主導した運動だからだと答えています。大人が清浄な水を求めただけの運動ではなく、自然発生的にできた抗議者たちのキャンプには多くの子供もいたし、若者が多くの人々の意識を高めるためにワシントンDCへの行進を組織しました。キャンプ場では赤ちゃんも生まれました。子供たちが未来を担うのです―筆者はそう答えています。
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『We Are Water Protectors』では、表紙にも描かれていますが、主人公の女の子が水を守るために立ち上がる場面場面で鳥の羽を手にしています。これは筆者のCarole LindstromやイラストレーターのMcihaela Goadeによれば神聖なもので、平和的な抗議のシンボルなのだそうです。ほかに先住民の言い伝えに基づくものなども盛り込まれており、単に環境問題のために立ち上がるという内容にはなっていないのではないでしょうか。
先住民の子供を主人公にしたことについて、筆者は子供のころから本が大好きだったのですが、自分と同じような子供を本の中で見ることはなかったと言っています。先住民の子供たちが自分たちの姿を本の中に見出すのは大切だとのことです。
以前、アメリカで黒人の人形を手作りしている日本人の記事を読んだことがあるのですが、女の子たちが「わたしにそっくり!」と喜ぶ人形を作るためだそうです。絵本や人形など、子供たちが手にするものに自分と同じ姿を見るのは、自己肯定感につながるのではないかと思います。

『We Are Water Protectors』はアメリカでもっとも権威のある児童文学賞のひとつ、コールデコット賞を2021年に受賞し、ニューヨークタイムズのベストセラーにもなりました。アメリカでは幅広く読まれているようです。
教師向けのサイトでは、この本を題材にして授業をするためのヒントなども載っていました。「なぜ水は保護しないといけないのでしょうか?」「石油や化学物質がどのように河川に流出するのでしょうか?」といった質問のほか、「スタンディング・ロックのような抗議運動に参加しますか?その理由は?」「自分の住んでいる地域にパイプラインの建設計画がたてられたら、どうしますか?」といった社会問題を考えるものまでありました。みなさんもこの本をご家族でいろいろと話し合ってみる材料にしてみてはいかがでしょうか。

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Posted on: February 21st, 2023 by Yuko Okumura コメントはありません

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