ニュージーランドで英語教育 ほうかごブログ

鉄のカーテンの向こう側の青春 —『The Wall: Growing Up Behind the Iron Curtain』

ウクライナでの戦争がまだまだ続いていますね。早く平和な暮らしが戻ってほしいと思います。
ニュースで毎日のようにウクライナ情勢が報道されますが、ロシアやヨーロッパの現代史について興味を持った方やお子さんも多いのではないでしょうか。
今回ご紹介するのは、冷戦時代のチェコスロバキアでの生活を描いた絵本“The Wall: Growing Up Behind the Iron Curtain”です。

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ベルリンの壁の崩壊、ソ連の解体などで冷戦が終結したのが約30年前。子供や若い人にとっては自分たちが生まれる前の昔の話ですが、40代後半以上の人であれば、冷戦は同時代的なこととして感じられるのではないでしょうか。
チェコスロバキアは今はチェコとスロバキアの2つの国に分かれていますが、冷戦中は一つの国で、チャーチルが鉄のカーテンと呼んだ東西陣営の境界の東側にありました。この本のタイトルにあるBehind the Iron Curtain(鉄のカーテンの後ろ)というのはそういう意味を持っています。

筆者のピーター・シスは共産主義体制下のチェコスロバキアで生まれ育ち、青年期まで過ごしています。小さいころから絵を描くのが大好きで、表現の自由が政治的に制限されている状況下でアニメーションやラジオの仕事をしていました。1984年にアメリカに亡命しています。

この”The Wall: Growing Up Behind the Iron Curtain”という絵本は筆者の自分の体験に基づいたもの。赤い旗を掲げて団体行動をしたりロシア語の授業が義務だったりと窮屈な日常の中で、主人公の男の子は好きな絵を描き続けます。そしてロックに目覚めビートルズにあこがれるようになったころ、1968年にプラハの春で自由な社会が訪れます。イギリスに行って、ヒッチハイクしてレコードをいっぱい買って…と夢は広がるのですが、すぐにソ連と共産圏の国々の軍隊の介入で、もとの体制に戻ってしまいます。
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読んでいると、どれだけ抑圧され自由のない社会だったかがひしひしと伝わってきます。子供を主人公とした絵本に政治的な批判を盛り込むのは、なんというかあざとくて嫌だなと正直最初は思っていたのですが、時折挿入される当時の日記などを読んでいると、今とは全く違う体制下で子供時代や青春を過ごすということが身近に感じられてきます。1949年生まれの筆者にすれば、プラハの春があった1968年は二十歳前。ロックが好きで、自由を制限されるのがどれだけ嫌か、容易に想像ができてしまいました。

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ほぼ各ページの下に、当時の状況を述べる短い一文が載っているのですが、これは過去形で書かれています。ですが、日記や絵に添えられた文は現在形で書かれています。
現在に生きる私たちからしてみたら、冷戦下のチェコスロバキアでは当時こういうことがあってこの後こうなって、ということはわかっていますし、もし当時のことに関する知識がなくてももう過去の決まった出来事だということはわかっています。
でも、私たちは先のことなんてもちろんわかないまま日常生活を送っていますよね。描かれているのは今の私たちとは大きく違う環境での生活ですが、現在形で書かれた部分があることで、先のことがわからない、私たちと変わらない普通の人の気持ちになって読むことができました。

アメリカのアマゾンではこの本は8-12歳向けとなっていますが、中学生以上のお子さんであれば親御さんと一緒にいろいろと内容について話ができるのではないでしょうか。
私は子供から、これどういうこと? とか、なんでこんなことやっているの? と聞かれて一緒に調べて、いい勉強になりました。

冷戦時代というと、今の中学生や高校生からしたら自分たちが生まれる前の話ですが、映像を見るとイメージがわきやすいと思います。NHKの「映像の世紀」シリーズでは冷戦時代を扱ったものがいくつかありますが、アマゾンのプライム・ビデオでも見られます。うちの娘は中国の回を見た後、いろいろ考えこんでしまってその夜はなかなか寝付けなかったと言っていました。

この本はニューベリー賞と並んでアメリカで最も権威のある児童書の賞であるコールデコット賞の、次点の候補者に授けられるHonorを2008年に得ています。また、アメリカの児童図書館協会(ALSC)が知識を得られる優れた本に与えるSibert Medalも受賞しています。冷戦時代の東欧に興味を持たれたら、親子で読まれてみてはいかがでしょうか。

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Posted on: June 30th, 2022 by Yuko Okumura コメントはありません

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